恋人の家はとても古くて、おばあちゃんちみたいな匂いがする。
田舎だから静かで、鳥の声が聞こえる。
春は黄砂が降って窓が曇る。恋人の車の上にも降り積もって、その上を野良猫が闊歩するから、紺色の車体にくっきり足跡がつく。文句を言いながら近くのガソリンスタンドに洗車をしにいく。
冬は足先がしびれるほど寒い。廊下は氷みたいに冷たくなって、家の中でも息が白い。
トイレの鍵は1階のも2階のも錆びていて閉まらない。お風呂は天井が高くて、歌うとよく響いて気持ちいい。湯船は銀色で、壁は昔ながらの大きな正方形のタイル。
たまに、和室の畳の上にタオルケットを敷いてもらって、二人で並んで横になって、ぐーぐー寝たりもする。身体のどこかが少しだけ触れていて、眠りが深くなるにつれて自分の体が熱くなっていって、起きたら外が暗くて、きっちりお腹が減っていて、まるで自分が小学生で、今が夏休みで、いとこの家に遊びに来てるような感覚になる。

もし恋人がオートロック付きのお洒落なマンションとかに住んでたら付き合ってなかったかも知れないくらい、恋人の家が好きだ。自分も生まれた時から古い家に住んでるせいか、あの家にいると妙に落ち着く。