ツムカギ(心のきれいな)

あまりにも鮮やかで、あまりにも圧倒的だったから、帰ってきてからもしばらくは心が全然こっちに戻ってこなくて参った。
それは本当に、随分久しぶりに味わう心の動きだった。近づきたくて、触れてみたくて、もっと見ていたくて、知りたくて、受け入れてほしくて、仕方がなかった。「ああそうだ、いつだって私の恋はこういう感じなんだった」って思い出した。

あのとき私は「彼に」というより、「あの島に」恋をしていたんだと思う。

色々なものを見た。スッピンにTシャツにビーチサンダルで、海だって山だってずんずん歩いていけた。不思議と日焼けも気にならなかったし、蚊に刺されてもそんなに痒くなかった。
帰りたいっていう気持ちが欠片も出てこない旅行なんて初めてだった。恋人の顔も遠のいて、どこまでも自由な気がして、でもやっぱり、戻る場所があることは分かっていて、そしてそれは(仕事にせよ恋愛にせよ)私が私の手で選び取ってきた結果なんだって、色んな子の人生を覗き込みながら、思った。

空港で流した涙のこと、きっとずっと忘れない。

私はまだ止まれない。凛とした在り方には憧れるけど、そこには当分行けそうにない。心も感情も柔らかくて、些細なことですぐに揺れ動いてしまう。そういう自分を、もう少し見つめていたい。