あの頃、失うことが怖くて怖くて仕方なかった。手放したら自分には何も残らなくなる気がして、ずっと見苦しくしがみついてた。
でも本当は、そういう苦しい状況になった時点で既に何かが千切れてしまっていて、そうなると大抵の場合、もう戻れないことが多いし、だんだん心身ともに辛くなってくる。
大切なものは、相手じゃなくて自分の中にあるんだから、離れても「何も残らない」なんてことはありえない。良くも悪くも、何かしらのものが絶対に刻み込まれてる。
きっとまた戻れる、いつか幸せになれる、ってとどまり続けても、そこはもう抜け殻と空き家でしかない。でも恋愛の最中ってそういうことが見えなくなりがちだから、なかなか気付けなかった。気付いても、「それでもいい」って思って、やっぱり離れられなかった。
あのとき奈良に行かなければ、まだあの渦の中にいたのかもしれない。
このあいだ、元恋人から2ヵ月半ぶりにメールが来た。
読めてしまう。文面には「ありがとう」ってあったけど、決して私に感謝の意を伝えたかったわけではないこと。ただ自分より幸せそうな今の私の状況を後輩から聞いて、揺らしたくなっただけ。
その濁りに気付いてしまった私は、もう二度と戻れない。
ねぇ、大切にしたい人ができたよ。きみもあの子をもっと大切にしてあげなよ。